日本ダービー

今年二番人気、いや下手したら一番人気かもしれないキングカメハメハ
私は同馬の調教師である松田国英が大嫌いだ。
なぜなら彼は、すべての競馬ファンに対する大罪人だからある。


彼の調教師としての信念は「レースを使って馬を強くする」。
調教よりもレースのほうが、競走馬の肉体にかかる負担は大きい。
つまりより強い負荷をかけることで、破壊された筋肉が超回復を起こすことを狙っているのだ。
そしてまた同時に、そこ過酷な状況を耐えぬいた馬こそが、最強馬に相応しい。彼はこう公言している。
確かにその超回復論はスポーツ医学的にも実証されており、間違ってはいない。
実際人間が行う筋トレにもその概念は導入されているはずだ。


しかし、である。
ちょっと人間の場合を考えてもらいたいのだが、試合を連続で続けて、しかもその全てで全力を出し切る。
そしてその試合ごとに加速度的に成長するなんていうことが果たして有り得るのだろうか?
もしそんなおいしい話が本当なら、プロ野球の各球団は若手有望株のピッチャーを中二日ぐらいで先発起用するだろう。
でもそんなことぜったいしませんね。壊れちゃいますからね。


松田調教師が駄目なのは、負荷がかかるのは筋肉だけではないというのを軽視しているように思われること。
筋肉以外にも関節や骨格など、あらゆる場所にダメージは蓄積されるわけで、しかも全力で行った試合のそれは練習時のものとは比べ物にならんはず。
しかしまあそんなことはさすがに重々承知だと思われる。
一番の問題は、競走馬の精神面への負荷を全く考えていないことだ。
私が使う理論では、競走馬の精神的な負荷の状況を予想に反映させることを主とするので、なおさら彼の競走に対する考え方には疑問を呈さざるを得ない。
競走馬は生物である。生きているのだ。
そのことにもう少し留意すべきではないだろうか。


まあ細かいことはいい。
というか、彼が大した成績を残していない調教師なら、こんな文句は書かない。
しかし彼は日本で有数の名トレーナーといわれるだけの成績を残してしまっているのだ。
成績の良い厩舎には、当然良い馬が集まる。
集められた才能豊かな競走馬たちは、彼の信念のもと競馬に送り出されていく。
そして悲劇は起こった。
松田厩舎は良い厩舎だという見解が定着したころ、クロフネという、後に日本競馬を揺るがす芦毛アメリカ産馬が入厩した。
クロフネは簡単に言えばキチガイだった。
そのダイナミックなフォームから生み出されるスピードは空を飛ぶかの如し。
乗ったジョッキーが、スピードが出てる気がしないのに速いタイムになってしまうと言ったのは有名な話。
同馬の競走馬生活の山場となったのは01年のジャパンカップダートだった。
前哨戦でレコード圧勝した彼は断然の一番人気でレースを迎えたのだが、スタートは軽い出遅れ。
内のほうの枠だったので前が塞がってしまい、ほとんど最後方からの競馬になってしまった。
圧巻だったのはここから。
向こう上面で冷静に外に持ち出した武豊は、3コーナーの手前で一気にスパートし、4コーナーではすでに悠々と先頭に躍り出てしまった。
そこからはもう突き放すだけで、二戦連続レコード大差勝ちという衝撃を突きつけてくれたのだ。
ご存知のように、普通競馬は直線向いてからスパートするもののはずなのだが、まさに常識外れの走りでの戴冠となったわけである。
しかし彼は大晦日も差し迫った12月末に故障を発症し、翌年の海外遠征プランを白紙にするとともに現役引退となってしまった。
私から言わせればこれは馬の走りが馬鹿すぎた部分が故障の最大の原因で、いってみればクロフネの自業自得に近い。
ところが少しくらい自らの方針を省みるかと思われた松田調教師は、翌年、今度こそ本当に自らの手で一頭の歴史的名馬を潰してしまう。
その名はタニノギムレット
ナリタブライアン以降、初めてクラシック3冠を取れた馬だと私は確信している。
クロフネのように自分の限界を知らない強さではなく、肉体的にも精神的にも近年最強といえるものを持っていたと強く主張したい。
普通クラシックで人気になる馬のローテーションというものは、
「トライアルレース→皐月賞→ダービー」
というものが一般的だ。
ところがギムレットがどういう使われ方をしたかというと
「アーリントンC→スプリングS皐月賞→NHKマイルC→日本ダービー
という、常識外れをを超えてもはや馬鹿とさえ言ってよい過密なローテが取られたのだ。
しかも走ったレースは全部レース体系の最高峰に位置するグレードレース。
後半三つは全部GⅠというおまけつきだ。
当たり前の話だが、競走のレベルが上がれば上がるほど、当然レースの負荷は大きいものになる。
ギムレットは強かったがためにこのレベルの競走でもそう簡単に壊れず、結局全部のレースを1−1−3−3−1という着順で走り抜いてしまった。
あげく最後には、ダービーを勝ってしまったのだ。
さすがにこの後は休養したが、秋の再始動を迎える前に彼は故障で引退する。
この馬がスプリングSを使わなかったら、間違いなく皐月賞を勝っていた。
この馬がマイルCを使わなければ、間違いなく秋には史上6頭目三冠馬が誕生していた。
競馬に絶対はないが、この馬の名誉のために間違いなくという言葉を使わせてもらおう。
そしてこの馬を壊したのは、間違いなく松田国英というグラサン野郎のわけのわからない信念だ。
競走馬が壊れるものを私は信念などと絶対に認められない。
普段はちゃらんぽらんと競馬をするが、ダービーと有馬記念の直前だけはいろいろ思うところが出てくる。
華々しく活躍する馬たちがいる背景には、多くの故障馬や廃棄処分となった馬がいるのである。
生命は地球よりも重いなんてどっかの首相のように頭から思い込んでるわけではない。
しかし故障した馬や処分される馬には、その馬に携わった多くの人の願いが込められているのは事実だ。
大きなレースを勝って種馬として凱旋して欲しい、せめて大きなレースに出てくれるだけでもいい、最低でも無事に帰ってきてくれさえすれば…。
一頭の競走馬には、いちファンのちんけな想像力をはるかに越える思いが込められている。
それは世界中のあらゆる馬に込められているものである。


競馬を趣味と公言する人間は実に残酷な人種といえよう。
これだけの人々の思いの犠牲の上に、自分の道楽を図々しく据えて、一体何様のつもりだろうか。
年に二回、ダービーと有馬の週だけは、決まってこの週だけは、なぜかそんな考えが頭の中を駆け巡る。


キングカメハメハは、いや松田国英は今年のダービーを勝ってはならない。
マイルC→ダービーのローテーションを確立させてしまえば、きっと今後数多くの名馬が潰れてしまう。
競走馬に思いを託すだけでなく、競走馬に生活を支えてもらっている職種の人間が、進んで馬を壊して良いわけがない。
新世代のファンから三冠馬を奪っただけでなく、今後のスターホースの出現さえも危うくさせる彼の思想が成就してはならない。
そして、キンカメがコケるだけの材料は十分ある。
いち競馬ファンである私は、残念ながら現在のところ馬券を買うという形でしかダービーに参加することは出来ない。
それならば、全く理性的な判断が出来ていないことを承知の上で、馬券で松田に逆らってやろう。
キンカメなんて一切買わない。
今年のダービーは松田国英との勝負である。
こっちの一方的な、しかもお門違いのわけのわからない勝負である。


まあ将来の競馬界のためとか、そんな大それた思想を抱えて挑むわけじゃない。
結局のところあいつの考え方が嫌いなだけだ。
某少年漫画の主人公に言わせれば、
「イヤな時にワケなんて言わなくていいんだぜ」
ってとこであるwww